みきほ氏ブログ

川崎在住、トリリンガル。日本にくる外国人観光客事情と対応術、インドネシア・マレーシアまわりのことを中心に書いています

クリスマスセールとグスドゥル(政治家)

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日本ではクリスマスも近づき恋人いなきゃダメみたいな空気が流れているようですが、イスラム教徒が人口の9割であるジャカルタでもクリスマスのムードが漂っています。各地のショッピングモールで、ペットボトル5万本で作ったエコなクリスマスツリー、20万個の小さいかざりをつけたツリーなど、「いかに話題を呼ぶクリスマスツリーを展示するか」の競争をしています。ほか、サンタクロースの人形やクリスマスツリーが設置され、主に富裕層の家族が記念写真をとったりしています。『クリスマスセール』として、いたるところでセールが繰り広げられています。クリスマスセールははんぱないです。どんなブランドも、セール。マークジェイコブスが半額。なんか買いたいですね、でもそんなお金ないです。
ハッピークリスマスと書かれた大きな赤い袋を持った家族連れが本当に多いです。土日にはモールの広場で一日中聖歌隊が歌っています。

しかしながら、上司曰く、クリスマスシーズンにクリスマスムードが漂い始めたのはインドネシアではほんの最近で、日本ではみんな歌えるクリスマスソングも、インドネシアの人は華人系以外わからない(知らない)という人が大多数とのこと。ある人は、かつてはクリスマス(=キリスト教文化、華人文化)を祝うのがなんとなくタブーの風潮があったと言っていました。

 といってもインドネシアにおける華人の立場がわからない人には、なんのこっちゃかわかりませんよね。
 その前に、世界各地にいる華人についての説明をします。*1中国人が世界中のいたるところで『チャイナタウン』を形成していますよね。あれは、いろんな事情があって先祖が中国本土から『脱出した』『追放された』ため移民をし、あるい仕事の関係で滞在し、新しい居住地に中国系の人にとって居心地の良い場所を作ったのがはじまりです。中国伝統の薬や、着物、お祝い事をするときの道具などの品物を扱う商店などもあります。そういったチャイナタウン、中華街は主に神戸や横浜のような港町にできます。
 ジャカルタも港町で、中華街があります。『コタ』とよばれる場所で、仏教っぽいお寺が残っています。インドネシア全域で、港がある地域には中国移民の末裔「華人」の人がぽつぽつといるわけです。
 各地にちらばる華人のネットワークを生かし、華人は遠方物流を仕切り、ビジネスセンスを研磨し、それを受け継ぎ、いたる地域で経済を担います。
 
 インドネシアは、1942年に日本軍が入ってくるまで、オランダの植民地下でした。オランダは日本が戦国時代を終えたばかりである1602年からずっとインドネシアに『蘭領東インド』と呼び、自分のものにしていました。
 その際、オランダは華人に対する扱いと、インドネシア土着の人たちに対する扱いを変えました。華人の住む場所を限定させ、完全に『民族の棲み分け』をさせ、また華人には製糖小売業する権利などインドネシア土着の人には与えられない様々な特権を与えました。江戸時代、日本の階級は職業別で士農工商でしたが、インドネシアは民族別でオランダ(ヨーロッパ系)>華人>土着民*2となっていたわけです。それが1942年まで、日本で言うと江戸と明治と大正と昭和を足した期間ずっと行われていたわけです。今でこそ日本は元武家だろうが元百姓だろうがあまり関係ありませんが、明治時代どのようであったか。坂の上の雲第一話あたりを見ればなんとなくわかると思います。
 土着の人にとったら、華人はおもしろくない存在なわけです。もうほんとおもしろくない。1945年、インドネシアが独立し、はじめて土着の人による土着の人のための政治ができるようになったとき、最初の大統領でありデヴィ夫人の旦那さんであるスカルノ大統領は華人に対してものすごーーい差別と弾圧を加えました。中国語を教える学校は廃校!中国人っぽい名前禁止!漢字とか目につくところに表示したら大変なことになる!というくらいの殺伐とした空気が華人社会に流れていました。
 1998年にアジア通貨危機が起きたとき、土着の人たちは「自分たちはサンダルも買えない生活を送ってるというのに、あいつらはBMWを何台も所有し、この国の経済を牛耳っていやがる」と、華人を狙って人を殺すし放火して店を燃やし華人の女性がそこにいたらレイプするしという大変な暴動が発生しました。

 というくらい、華人はインドネシア社会で差別されていました。大変だったんです。
 キリスト教徒の多くは華人で、キリスト教=華人のイベントなわけです。だからクリスマスとか派手に祝えない!
 
 政治的な混乱もあり、大統領も変わりました。スカルノの次の大統領、ハビビ大統領。そして、イスラム学者としてインドネシアの熱心なイスラム教徒の支持を得るグスドゥル大統領。グスドゥル大統領のとった方針の一つに「マジョリティはマイノリティを保護しなければならない」というのがありました。
 マジョリティであるイスラム教は、他宗教を弾圧してはならない。そして、マジョリティであるジャワ人は、ほかの民族を見下してはいけない。
 かつては、「ジャワ人」「イスラム」が正義で、「華人」「華人の宗教であるキリスト教」は隠すべきものでしたが、方向転換がされたわけです。そこから漢字も解禁になり、『共産党』や『ジャーナリズム』など、これまで制限されてきたいろんなものがオープンになりました。

 それが、今日はモールいったらクリスマス一色。うちは外資系企業というのもあるのですが、クリスマスカードだって届く。
 もちろん商業的なもくろみもあるのでしょうが、こんなに盛大に祝ってよくなったというのは、グス・ドゥル前大統領が華人や少数民族への差別のない社会を目指した結果とも思います。
 
 このように、いまの社会と歴史はつながってるんですよね。こんにちクリスマスセールが行われ、ボディショップにいたっては4つ買ったら値段が安い順に2つタダ!もしかしたら年末セールはクリスマスの名を冠さずずっとあったかもしれませんが、なんにせよ、わたしの部屋がいまボディショップのジャスミン&プルメリア ホームフレグランスオイルのにおいで充満しているのも、すべてグスドゥルのおかげなのです。クリスマスだから買っちゃったんです。グスドゥルもうすぐ一周忌!一度はカリバタ英雄墓地に行こう!
という強引なまとめでおわり。長い文章おつかれさまでした。


(間違った情報を載せていたら、コメント欄などでお知らせください。加筆修正あります)

*1:データソース・原不二夫教授

*2:土着民と言っても、そこから細かくジャワ人、スンダ人、バリ人、アチェ人、ミナンカバウ人といろいろいるわけです。その中で一番多いのがジャワ人で、自然と大統領出身者もジャワ人が多いです。わたしたちからみたら、みんなインドネシア人なわけなのですが、ジャワ人の中には、自分たちが一番えらいと思ってる人もいます。