川崎図書館の新着図書リストにあった「空から降ってきた男」というタイトルだけ見て、ファンタジーと決めつけて予約(別館から取り寄せ)した本。ふたを開けてみたらノンフィクション・ドキュメンタリーだった。しかもめっちゃ心が痛くなるタイプだった。
アフリカという土地には行ったことがない。地域によっては、女性の人身売買が横行したりゲリラ兵が村を焼き払ったり等治安が悪く、欧州諸国の分割統治でごちゃごちゃになっている地域、というイメージが強い。それらのイメージも、いったいいつの時代のものなのかわからない。正直なんにも知らない。
この本は、2012年という割と最近、アフリカで起きた出来事を、一人の女性へのインタビューと現地取材で構成している。推理小説を読んでいるような不可解さ・面白さと、家族観・価値観のひずみ、インドネシアでもよく聞いた行政の働き方が興味深く、ページをめくる指が止まらなかった。
タイトルの「空から降ってきた男」は、ロンドン郊外に、飛行機から堕ちたモザンビーク人。年齢は私とあまり変わらない、生きていたらアラサー世代だ。彼は飛行機の車輪格納部に身をひそめ、空の密航を企てた。なぜ密航を企てたか? 彼は、パスポートを持っていなくて、正規ルートでの入国ができなかった。 なぜパスポートがないのか?出生時に内戦だったため、彼は出生証明書や戸籍がない。何度も役場窓口に足を運び、どれだけ賄賂を払っても、必要書類を手に入れることができなかった。
この時点で、かなり興味を惹かれる。モザンビークの内戦は1977年から92年まで続いた。86年生まれの「空から降ってきた男」は、まともな学校教育も受けられなかったはずだ。つまり飛行機が飛んでいるような上空は酸素が薄いことも温度が低いことも知る機会が得られなかったんじゃないだろうか。日本じゃ小学校高学年くらいで学ぶ知識だけど、知っている人は、世界全体を見渡すとどれくらいの割合なんだろう。
彼が飛行機密航という暴挙に出てまでロンドンに行きたかった理由はなにか。一言で言えば「恋」だけど、そんな陳腐なものではなく、移民と経済格差とジェンダー観差異などがからまって、壮絶で、おもしろい。
彼が出稼ぎに行っていたカメルーンの富豪の家の暮らしぶりは、「現代のおとぎ話」と表現される。その背景も一見だ。ジェンダーと家族観をめぐる価値観の衝突が描かれ、読んでいるとムズムズしてくる。そしてこれは、日本の富農周辺で現在進行形で起きていることと同じだろう。学びがあると同時、若干の絶望もある。
やっぱり、自分はアフリカについてなんにもしらない。そもそも、アフリカといっても広い。友人の実緒子が2年間、海外青年協力隊としてガーナで生活をしていた。彼女からもっと話を聞きたいなあ。
この本を読んだのは去年2016年だったけど、昨年読んだ本の中で一番良かった一冊だった。