みきほ氏ブログ

川崎在住、トリリンガル。日本にくる外国人観光客事情と対応術、インドネシア・マレーシアまわりのことを中心に書いています

インドネシアのバティックはなぜ市場を広げられたのか (仮)

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id:shufuo 世界中探しても民族衣装業界が成長産業な国なんてどこにもないだろう

とあったので、バティックはどうなんだろう...と思いちょっと思いつく限り書きます。まとまってないですし、誤りも多いと思います。2010-2013年、ジャカルタで新聞記者をやっていたとき、このバティック産業のことを取材していたので、記憶を頼りに書きます。

1.そもそもバティックは「民族衣装」と言っていいのか?

広義でいうと、バティックはろうけつ染という手法で作られた(染められた)布のことです。

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もともとはジョクジャカルタ、ソロ等中部ジャワの王家の人々が、この布を使った腰巻や肩掛けや衣装をお召しになられており、それぞれの王家がそれぞれの模様を持っていました。日本的には家紋みたいなもんでしょうかね、ファミリー柄的な感じでしょうかね。下の画像の右のおじさんの恰好が、クラシックな、伝統的な、王宮に出入りする人の服です。腰巻と帽子がバティックです。

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模様は地域によって特色があり、ジャワ島北部では中国文化の影響を受けた花鳥、唐草模様をモチーフにしたやつが多いです。(例、下の画像)日本軍統治下は、日本の着物の柄を題材にしたバティックが生産されることもありました。 

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ところが、近年はろうけつ染という「手法」ではなく、「バティックの柄」に注目されています。バティックというけれど、染めてなくてバティック柄を印刷した布、ということはあるあるです。

そして、プリントだろうが手染だろうが、バティック柄の布を使った服はみんなバティック衣装と言います。

このバティック衣装はNational Costume、民族衣装扱いをされてます。

ある意味、バティックを使った服であれば、それはデニムに合わせようがオフィシャル着だろうが、National Costume:民族衣装としてのバティックという扱いです。

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これも

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これも

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これもバティック衣装。

 

つーわけで、本来は布を指し示すものが、柄を指すようになり、その柄使っている服全部も含めてバティック衣装と言われているんで、それを「民族衣装」といっていいのか、わたしはちょっとモヤっとします。

バティック(ろうけつ染め)という手法を使って、 相撲や富士山を描いた布を作り、そこから服に仕立てる作家も取材したことあります。バティックが、布なんだか、技術なんだか、ファッションなんだか、最後までよくわかりませんでした。物質的なものでなく、フィロソフィー的なものなのかなあ。

 

厳密な「衣装」というくくりでは、ジャワの場合クバヤ↓なんでしょうね。

でもまあ、これもみんな割とカジュアルに着ていますけどね。

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2.ユネスコ世界無形文化遺産認定後、市場が広がる

バティック産業がすごーーーく拡大しています、2009年にユネスコの世界無形文化遺産認定後、毎年2割とか3割増とかいうスピードで上がっています。いや国内消費額じゃなくて輸出額だったかも。資料見つけたら追記しますが、そういうドキュメントの翻訳を何回かやった覚えがあります。

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こういうバティックの布の展示会を、東京ビックサイトみたいなところで数か月に一回3~7日くらいやって、後半は業者だけでなく一般も入場できるようになってます。布を買って自分で作るか針子さんにオーダーするか、もしくは会場でそのまま採寸してもらって作ってもらうこともあります。

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バティック関連の国内消費額の算出はすごく難しそう。インドネシアの人たちはメルカリ的CtoC取引をインスタ上でやって、電子マネープリペイドケータイの残高)で送金しあうでなあ。

3.なんで広がったのか?「バティックは正装」

なんで広がったのか。毎週金曜日を「バティックデー」と銘打って、政府が仕事服としてバティック着るのを奨励したが大きな要因と思う。例えば工場の起工式や、企業のセレモニー、国会などでもみなさんバティックを着ている。日本人含む外国人のビジネス出張おじさんたちは「とりあえずバティック着ればいいらしいから」って1着買う。

バティックは長い間、若い世代の間では「古臭いもの」「前時代的」と評価されていた。当時30代前半だった私の同僚(ミナンカバウ族のインドネシア人)も、私が入社した2010年ごろは「バティックなんか着ないよ」とバカにしていたけど、私が退職する2013年には週1-3でバティックを着ていた。金曜日だけ、あるいは式典用にバティックを着てみたところ、周りから「似合うじゃん」「そのバティックいいじゃん」と褒められ、国内旅行にいったらご当地Tシャツではなくご当地バティックを買うようになった...といった流れだったと思う、たしか。

 4.なんで広がったのか?「愛国心を表現するファッションだから」

私がいたときによく感じたのは、インドネシアの人たちは、自分がインドネシア大好き!っていうことをアピールするのが好きな人が多い。自分の表現ツールの一つであるファッションで、手っ取り早く「インドネシアの文化大好き!誇りに思っている!」とアピールできるなんだと思う。

バティックが好きというより、バティック着ている自分が好き、バティックを買ってインドネシアの国内産業・伝統文化保護に一役買ってる自分が好き、みたいな。エシカルファッションとして消費されている側面もある。(私がそうだったんだけど)

5:(追記)なんで広がったか?「デザイナーを巻き込んだ 」

ジャカルタでも、東京ファッションウィーク的なポジションであると想定される、ジャカルタ・ファッションウィークというのがあり、インドネシアのファッションブランドデザイナーのコレクションが披露されます。少なくとも、私が取材した2011年~2014年まで毎回、「バティック部門」というのがありました。プロデザイナーによるバティックを使ったファッションデザインに触発された、さらに若いデザイナーやインディーズブランドが、バティックを取り入れたコレクションを発表し続ける...そんないい循環があったと思います。

2011年ごろ、当時の商業相は、インドネシアを2020年までにムスリムファッションの中心地の中心地すると目標を立てています。ムスリムファッションは体の覆う面積が広いので、インドネシアの華やかなバティックやイカットなどと相性がよく、かつ天然石もよくとれるので、メイド・イン・インドネシアかつ素材も全部フロム・インドネシアで、世界中のおしゃれなムスリムに発信していこうぜ、そして外貨獲得目指そうぜ、という目論見です。ファッションウィーク系のイベントは増えていて、政府主催のインドネシア・ファッションウィーク、そのほかのムスリムデザイナー協会によるムスリム・ファッションウィークなど、増えてます。これらのイベントめっちゃたのしい。

 

 

いったん、本日はここまで。追記するかもしれない、しないかもしれない。

インスタでバティックの画像見てたらまたほしくなってきた...

 

追記の追記、かつ余談:多民族国家とバティック

「バティックはジャワ周辺の文化なのに、バティックを国家としてのインドネシアナショナル・コスチューム扱いするのはどうなの?」という声もあります。

前述の同僚は、当時はジャカルタに住んでいますが、一族のルーツがスマトラ島北部でミナンカバウ族としてのアイデンティティが強かったです。「バティックなんか着ないよ」って言ってたのは、「バティックなんか古臭くてダサいもの着ないよ」じゃなくて「バティックなんてジャワ人のもの着ないよ」という気持ちがあったのかもしれません。

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ジャワのバティックに相当するものは、ミナンカバウではソンケットという金糸を使った織物で、これも美しいです。

ソンケットを使った服も男女問わずありますし、オフィシャル着として着ていいことになってますが(たぶん)バティックほど着用奨励とはなってないでしょう。

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比較的ジャワに近いスマトラですらそうなので、パプアやカリマンタンの人はどうだろうか。モヤモヤしそうですね。